2020年10月6日は世界中のギターキッズにとって最も悲しい一日となった。
エディ・ヴァン・ヘイレンの死去、誰もがこのニュースを受け入れることはできなかったであろう。
一聴すれば彼だとわかる個性的なフレーズ、厚みと温かみを併せ持ったブラウンサウンド、そして世界で一番楽しそうにギターを弾くまさに"ギターキッズの鑑"のようなギタリストであった。
この記事ではそんなエディ・ヴァン・ヘイレンの略歴や使用ギターから現行のシグネチャーモデルまで徹底解説していく。
少々長くなるが最後までお付き合い頂ければ幸いである。
目次
エディ・ヴァン・ヘイレンの歩み
画像:Eddie Van Halen plays his custom Frankenstrat guitar at the Joe Louis Arena during Van Halen's "5150 Tour" on May 9, 1986, in Detroit, Michigan (Picture: Ross Marino/Getty)
まずはエディの来歴についておさらいしていくことにしよう。
生い立ち
1955年1月26日、オランダのナイメーヘンでオランダ人でクラリネット奏者であった父とインドネシア系の母の間に生を受ける。
父親の仕事柄もあり幼少の頃よりエディは兄のアレックス(後にVan Halenのドラマーとなる)とともにピアノやヴァイオリン楽器を演奏していたが、1967年にアメリカ・カリフォルニア州のパサデナへと移住した後はThe Beatlesの映画『A Hard Day's Night』に影響され弟のエディがドラム、兄のアレックスがギターをはじめる。
しかし、ドラムの素質は兄のアレックスの方が向いていたようで、エディよりも演奏技術が上達してしまった。そして互いに楽器を交換しエディはギタープレイヤーへと転向するのである。
この出来事が後の”ギターヒーロー”を生み出すことになるとはもちろん本人も知らなかったであろう。最初は「仕方なく」という気持ちでギターを弾き始めたエディであった。
Van Halen結成
互いの上達に伴いヴァン・ヘイレン兄弟はジェネシスというバンドを結成する。
バンド名やメンバーを替えながら活動したのち兄弟揃ってパサディナシティカレッジに入学し、ヴォーカルのデイヴィッド・リー・ロス、ベーシストのマイケル・アンソニーと出会い、バンド名をVan Halenと改め再出発するのである。
バンドはパサデナを中心に、ロサンゼルスやハリウッドなどのクラブでライヴを重ね、1976年にはキッスのジーン・シモンズの資金援助を受けデモテープを作るがレコード会社は興味を示さなかった。
しかし1977年11月、レギュラー出演していたクラブにワーナー・ブラザース・レコード社長のモー・オースティンと、プロデューサーのテッド・テンプルマンが突然現れ、24時間以内の契約を迫るとバンドはその場でメジャーデビューを勝ち取ったのである。
デビュー、その後
1stアルバム 『炎の導火線』
1978年1月、キンクスのカヴァー曲『You Really Got me』でデビュー。
翌月には現在でもVan Halenの最高傑作と評される1stアルバム『炎の導火線』をリリースし全米最高位19位を獲得し全米で1,000万枚以上を売り上げた。
1stアルバムの成功と同時にライトハンド奏法や高速ハミングバード奏法、アーミング奏法などエディのずば抜けたギターテクニックが全世界へと知れ渡ることとなる。
そして2ndアルバム以降もヒットを飛ばしエディもギタリストととしてMichael JacksonのThrillerに収録の『Beat it』に参加する。
1984年に発売したシングル『Jump』は5週連続1位、『Panama』 『I'll Wait』もトップ20ヒット。そしてこれらヒット曲が収録された6thアルバム『1984』は1stアルバム『炎の導火線』に続き、全米で1,000万枚以上を売り上げるメガヒットとなった。
6thアルバム 『1984』
しかし売上セールスの成功とは裏腹に音楽性の違いからメンバー間の仲はギクシャクしていたようで、1985年7月頃にボーカルのデイヴィッド・リー・ロスが脱退してしまう。
後任のヴォーカリストにサミー・ヘイガーを迎えるも1996年にはサミーも脱退し、ゲイリー・シェローンを迎えることとなるが、その後も悲運は続き、1999年のレコーディング中にゲイリー・シェローンが脱退、そしてついにヴォーカリストが不在状態となった。
また2000年にはエディの癌が発覚し、他にも長年酷使した腰の手術などの影響で、バンドは実質休止状態となってしまうのだ。
停滞からの復活
画像:https://extratv.com/2020/11/19/what-eddie-van-halen-s-son-wolfgang-will-remember-most-about-his-famous-father/
2006年までメンバー間の不仲、メンバーの入れ替えが続いたが、同年の11月にベーシストとしてエディの息子ウルフギャングの加入が発表されメンバー入れ替えに終止符が打たれることとなったのである。
翌年2007年にはロックの殿堂入りを果たし、オリジナルメンバーだったデイヴィッド・リー・ロスも復帰したことでバンド、そしてエディは生ける伝説としてカムバックしたのである。
2012年には1998年ぶりのスタジオ版を発表、その年の6月から始まったツアーはエディの大腸憩室炎の緊急手術によるリスケジュールもあったものの、2013年の来日公演を含め大成功を収めた。
しかしそれ以降はエディの体調は悪化の一途をたどり、2015年以降バンド活動は完全に休止し病と向き合う日々を過ごすこととなった。
そして2020年10月6日、長い長い闘病生活が終わると同時にこの世を去ったのだった。
享年65歳、早すぎる別れであった。
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ウルフギャング・ヴァン・ヘイレン:
これを書かなければならないなんて信じられませんが、私の父、エドワード・ロデワイク・ヴァン・ヘイレンは、今朝、癌との長く困難な戦いに負けました。
彼は私にとって最高の父親でした。ステージの内外で彼と共有した瞬間は、最高の贈り物でした。
私の心は喪失おり、完全に回復することはないと思います。
ポップ、あなたをとても愛しています。
My heart is broken. Eddie was not only a Guitar God, but a genuinely beautiful soul. Rest in peace, Eddie! ...Eddie Van Halen Dead at 65 from Cancer https://t.co/gITtcndQVv
— Gene Simmons (@genesimmons) October 6, 2020
ジーン・シモンズ:
私の心は壊れています。エディはギターの神であるだけでなく、真に美しい魂の持ち主でもありました。安らかに、エディ!
...享年65歳 エディ・ヴァン・ヘイレン
Oh man, bless his beautiful creative heart. I love you Eddie Van Halen, an LA boy, a true rocker. I hope you jam with Jimi tonight. Break through to the other side my brother. ❤️❤️❤️ https://t.co/XpcTlPJq9A
— Flea (@flea333) October 6, 2020
フリー:
ああ、彼の美しい創造的な魂を祝福してください。 LAの少年、真のロッカー、エディ・ヴァン・ヘイレンが大好きです。今夜ジミとジャムしてください。ブラザー...君はまだ見ぬ彼方へ。
Heartbroken and speechless. My love to the family. pic.twitter.com/MQMueMF2XO
— Sammy Hagar (@sammyhagar) October 6, 2020
サミー・ヘイガー:
喪失し、言葉を失います。家族へ私の愛を。
代表的な使用ギター
エディの軌跡を紹介したところで彼の使用したギターを紹介していく。
彼の音への探求心から察せる通り、年代により多数のギターを使用しているためすべてを紹介することはできないのだが、ここでは後のシグネチャーモデルへとつながるアイコニックなギターを追っていこう。
Frankenstein
画像:https://bothners.co.za/the-loss-of-an-icon-eddie-van-halen/
彼のアイコンといっても過言ではないメインギターであるフランケンシュタインは、1978年のデビューアルバムのジャケットで世界中に知れ渡った。
そのギターはウェイン・シャーベル氏から200ドルで入手したボディとネックを使い自作したギターで、ボディ塗装はバイク用の白い塗料を下地に黒のストライプが入れられたものだ。
ネック周りはエディ自身により平らなRに削り直された指板、6100ジャンボフレットを採用かなりプレイヤビリティの高いスペックで、ピックアップはES-335に搭載されていたPAFを巻きなおし、ポッティングを施して使用していた。
この段階でもかなり個性的な楽器に仕上がっていたものの、彼の"このギターには何度も手を入れた、他人がこのギターのコピーを作るのに私はうんざりしていたから"との言葉通り80年代には同じ個体とは思えないギターに姿を変えるのである。
まず従来のものの上から赤のレイヤーを追加、ピックガードもボリューム部分を残して切除されておりピックアップキャビティには赤く塗られたダミーのPUとダミーのセレクターが追加されている。
ブリッジは50年代製ストラトキャスターのビブラート・ユニットが装着されていたがフロイド・ローズへと交換、ネックも元々のラージヘッドからスモールヘッド、Kramer製のものなど幾度となく入れ替えられている。
この病的とも思える変遷を経て、歴史的名機、そして昨今における"スーパーストラト"という概念は誕生したのである。
Kramer 5150
画像: Eddie Van Halen in 1984, at the height of his popularity. © Getty Images
次に紹介するのは『Panama』や『When It’s Love』をはじめ多くのプロモーションビデオでその姿を確認でき、1990年代に至るまでメインとして活躍してきたKramer 5150だ。
Franken同様に赤黒白のストライプペイント、ブリッジ付近の5150ステッカーがトレードマークで、フロイドローズブリッジ、エディが好んだダイレクトマウントで設置されたリアハムバッカーピックアップの王道スーパーストラトに仕上がっている。
実はこのギターはヘッドにKramerロゴがあり、パーツ自体もKramerであるが純粋なファクトリーメイドのKramerではない。
本人のによると黄色に黒のストライプの入ったダブルネックを除き、彼が所有するKramerギターはすべてエディの手により組み立てられたギターであったというのだ。
また余談ではあるが現在もKramerが販売しているBarettaはボディシェイプやスペックが5150に酷似しているためしばしば"ヴァン・ヘイレンモデル"と呼ばれることがあるが、同インタビューにてエディは関与を否定している。
そのためだろうか、BarettaのPUは5150のようなダイレクトマウントではなくエスカッションマウントのモデルが多いのである。
話がそれてしまったが、めったに楽器をほめることのないエディが"今でもいい音"と語るところから察するにFrankenと並び愛着のある楽器なのであろう。
Music Man EVH Signature
画像: https://www.vhnd.com/2009/02/26/sterling-ball-on-his-association-with-evh/
エディのサウンドに大きな変化がみられる1990年代に入り、Peavey 5150アンプとほぼ同時期に登場したのがこのMusic Man製EVH Signatureモデルである。
1991年に発表されたこのモデルは、後に発売されるPeaveyや自身のブランドであるEVHで発売されるWolfgang、そして現在でもMusic ManのベストセラーとなっているAxisの原型となっており、一つのモダンギターの完成形といえる仕上がりだ。
テレキャスターを丸く小さくしたようなボディシェイプに2つのハムバッカーピックアップ、フロイドローズブリッジ、1ヴォリュームとなっており、実際に構えるとフルスケールギターとは思えないサイズ感と取り回しの良さを誇る。
ちなみに類似モデルAxisとの主な違いはヘッドロゴとPUセレクターの位置で、EVHは1弦側ホーン部分、Axisはボリュームの部付近となっている(日本製Axis EXは例外で1弦ホーン側)。
契約の関係などがあるのか近年ではほとんどその姿を見ることができなかったが、現在でも多くのフォロワープレイヤーに使用され高騰を続ける伝説のモデルだ。
シグネイチャーモデルの紹介
前項では彼の著名な使用ギターについて紹介させていただいた。
どの楽器も個性的で大きな魅力を持つものばかりのため、同じ楽器に憧れるプレイヤーも多いであろう。
ここではフェンダー社プロデュースの元、エディ自身が立ち上げたシグネチャーブランドであるEVHにより製作された彼のシグネチャーモデルを紹介させていただく。
もちろん本人使用ギターと全く同じモノとは言えないが、彼の息吹がかかり、その手で設計されたギターである。
ぜひ前項で紹介した元となったギターを想像しながらこの項を読んでいただけたら幸いである。
EVH Striped Series Frankie
画像: https://www.evhgear.com/gear/series/guitars/
多くのEVHファンにとってのベストチョイスのとなりえるのがEVHブランドの"Frankie"だ。
あのFrankensteinの公式コピーモデルとなっており、本人使用機と同様赤白黒のストライプペイント、ダミーのフロントPU&セレクター、切断されたガードなどファンならばニヤッとしてしまうポイントが抑えられている。
画像: https://www.evhgear.com/gear/series/guitars/
またFender MexicoのRoad Wornを彷彿させる質感のRelic加工が施されているため、まさに手にした瞬間から気分はJumpである。
国内ファーストロットは即完売に近い状態であったが、今後も継続的に製造されるであろう。
新品価格も20万円台前半と安くはないが手の届かない額ではないし、中古であればより気軽に手にできるはずだ。
部屋にあるだけでエディを感じられる至高の一本、ぜひ手に入れてみてはいかがであろうか。
EVH Frankenstein Replica Masterbuilt by Fender Custom Shop
画像:https://sneakernews.com/2009/06/17/eddie-van-halen-sues-nike-for-copyright-infringement/
上記のモデルでは満足いかない、もっとリアルなFrankenが欲しい、そんな方にはこちらのモデルを紹介しよう。
こちらは2007年に限定生産されたモデルで、本人所有の実機を隅々まで採寸しJohn Cruzをはじめとした当時のFender Custom Shopのマスタービルダーにより製作されている。
市場でほとんど見ることのないモデルで、海外では2~300万円で取引されていた履歴が存在するがエディがこの世を去った今ではさらなる高騰が予想される。
SRV No.1 StratocasterをはじめとしたTribute Seriesのほかのモデルに引けを取らないかなりの高額モデルであるが、生粋のエディファンにはたまらな逸品ではなかろうか。
EVH Wolfgang Series
画像: https://www.evhgear.com/gear/series/guitars/
Music Manから始まり、Peaveyを経て、EVHブランドまで継承され、もはや一種のスタンダードとなっているのがこのWolfgangである。
バスウッド/メイプルトップボディ、フェンダースケール(弦長5インチ)で22フレット、グラファイト補強がなされた柾目ネック、直接マウントの2基のハムバッカー・ピックアップ、Dチューナー付きフライトローズなどMusic Man〜Peavey時代からの大まかなデザインコンセプトは一貫してはいるが、エディ本人とフェンダー・マスタービルダーのチップ・エリス氏によって、カスタムピックアップの構造やマウント位置、塗装、エボニー指板、ストライプペイントを取り入れるなど更なる試行錯誤が加えられた。
画像: https://www.evhgear.com/gear/series/guitars/
エディ本人と同仕様のシグネイチャーモデルは、バスウッドボディのトップにビッグリーフメイプル材を貼り付けた2層構造、ブロックインレイ(ドットインレイも有り)、アルニコIIIカスタムハムバッカー(フロント)、キルスイッチ、特製アイフック&ストラップなど個性的な仕様が特徴的だ。
上位モデルであるWolfgang Specialは新品12万〜17万/中古8万〜10万程度、リミテッドエディションモデルやストライプカラーモデルは新品18万〜20万/中古はほとんど出回らない、廉価モデルであるWolfgang Standardは新品8万〜9万/中古6万〜8万程度で取引されており、楽器のクオリティは非常に高いものの比較的お手軽な価格帯でゲットできるのもWolfgang Seriesならでは嬉しいポイントである。(2020年12月調べ)
最後にまとめ
この記事ではエディの来歴と共に使用したギターの一部と現行のシグネイチャーモデルにフォーカスしたが、エディがこの世に残した功績は当然ながらこの記事だけでは紹介しきれない。
エディは”ギターヒーロー”であると同時に根っからの”ギターオタク”であり、プレイヤー側とクラフトマン側の両方の側面から音楽界に革新をもたらした稀有な存在であった。
彼の登場以前と以後ではギター奏法のみならず、ギターそのものの概念が大きく進化したことはエディのファンならずとも往年のギター好き、ロック好きにとってはもはや常識であろう。
若者のロック離れやギター離れ、ギターヒーローの不在が叫ばれるさみしい時代の到来とともに、エディはこの世を去ってしまったが、あの笑顔で楽しそうにギターを弾くエディの姿は不滅である。
エディの残したギター、楽曲、奏法はこれからもずっとギターキッズたちに果てしない夢(と同時にコピー難易度の高い試練)を与えながら、数々の歴史的名ギタリスト達とともに永遠に語り継がれていくことだろう。

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