数々のスーパーセッションギタリスト達が名を馳せた1980年代...そして30年以上のたった現在でもハイエンドギターの最高峰として君臨する「James Tyler Guitars」。
1本として同じものの存在しないオリジナルフィニッシュや独自のコントロール、高いプレイヤビリティと音質により数々のギタリストの憧れの存在となっている。
この記事ではそんな「James Tyler Guitars」の歴史や各モデルの特徴、さらに近年における相場観までもを徹底解明していく。少々長くなるが最後までお付き合い頂けたら幸いである。
目次
James Tyler Guitarsの歩み
創始者Jim Tyler氏のキャリアスタート
(創始者Jim Tyler氏)
時はロックの創生期、BeatlesがA hard days night、Rolling StonesがTime is on my side、日本では坂本九氏の「明日があるさ」がヒットを飛ばした1964年。
13才で初ギターであるFender Duo Sonicを手にしたTyler氏はギターの魅力にどっぷりとはまり、中高生時代をバンドに費やし、エリック・ジョンソンやスティーブ・ヴァイなど数々のギタリストに影響を与えたTed Greene氏のギターレッスンを受けることとなる。
そしてTed氏から紹介されたブルースブレイカーズのアルバムでのエリッククラプトンのギターサウンドに大きな衝撃を受け「今までで自分の覚えている最も印象的なトーン」に出会った。
高校進学後は自身で楽器のリペアやモディファイを行うようになり、建築やデザイン、写真から神学まで多岐にわたり学んだ大学時代は学費を稼ぐためにBMWやアルファロメオなどのカーメカニック業も行った。
大学卒業後、1978年にはサンフェルナンドバレーにある有名ギターショップ「Norman’s Rare Guitar」にてリペア、レストアの責任者となり高い評価を得たTyler氏は、1980年にカリフォルニアのレセダにて自身初の工房をオープンさせる。
Tyler氏のキャリアにおいて芸術分野からメカニック分野に渡る幅広いコンテンツへの興味や経験が、従来の楽器デザインにとらわれないJames Tyler Guitarsの源流となっているのかもしない。
80年代音楽シーンを作り上げたスーパーストラト
(Michael Landau/Dann Huff)
80年代に入るとフュージョン、クロスオーバー、LAメタルの全盛とともにすべての音楽ジャンルに対応できる楽器として様々なモディファイが施された「スーパーストラト」が登場する。
Michael LandauやDann Huffをはじめ多くのギタリスト達は新しいコントロールやピックアップ、フロイドローズトレモロの搭載など数々のアップグレードを自身の楽器に求めることとなる。
そしてその要望に応えるべくTyler氏はネックやボディ、ピックアップをSchecterやTom Anderson、Mighty Might等のショップで製造されたカスタムパーツを使用しオリジナルのギターを制作することとなるのだ。
このころには現在のラインナップにも採用されているDemeter製のミッドブーストを搭載したリズムリードサーキットも開発され、多くのミュージシャンたちがTylerサウンドを求めていくことになる。
「Either you know or you don’t ~ 看板もショウウィンドウもないギターショップ」
Tyler氏は自身のショップをノースハリウッドに移しハイエンドなギターやベース、アンプなどを取り扱う現在のブティック系ショップのハシリとなるビジネスを展開していった。
このころにはMichael Jacksonのヒット曲であるThrillerをプレイするためにDavid WilliamsがTyler Guitarを使用したり、数々のミュージシャンたちが試作品や新しいアイデアを試し自身の楽器に採用するようになっていった。
店には看板もショウウィンドウもなかったが、数々のミュージシャンたちが絶え間なく訪れ口コミで広がっていくこととなる。
そしてこれがTyler GuitarsのミステリアスなキャッチコピーであるEither you know or you don’t~ 知る人ぞ知る看板もショウウィンドウもないギターショップへと発展していったのだ。
PuffyからBurning Water...Tyler Guitars のオリジナリティとクオリティ
1988年、ついに現在に至るまでの定番機種である「Studio Elite」が日の目を見ることとなる。
同年にはSteve Lukather氏のオーダーにより制作されたJim BurstフィニッシュのStudio Elite通称Puffyを製作。
(Steve Lukather氏のJim BurstフィニッシュStudio Elite通称Puffy)
1990年代に入ると独特なボディシェイプが印象的なUltimate Weapon、1つとして同じ柄に仕上がらない独自のPsychedelic VomitやBurning Water、Shmearフィニッシュを開発するなどなど唯一無二の存在へと進化していった。
(Burning Water)
2000年代に入ると自社製のピックアップの製作を開始、また斬新なデザインとボディ構造を採用した新ブランドであるJoe-X Guitarsを立ち上げる。
現在に至るまで様々なスペックやデザインの楽器がJim Tyler氏の手により生み出されてきたが、どの楽器を手に取ったとしても常に自身の理想を追い求め今なお進化を続けるTyler Guitarsだからこそ実現できる「マキシマムトーン、マキシマムプレイヤビリティ」を感じることができるだろう。
James Tyler Guitars 5つのベーシックモデル
James Tyler Guitarsの楽器は「名称やデザインが1本1本違いすぎてわからない」「コントロールで名前が変わる?」など難しい楽器の印象を持つ方が多い。しかし大まかには以下で紹介する5モデルとオプションにて成り立っているのでこれから購入を考える際には参考にしてみていただきたい。
Studio Elite
James Tyler Guitarsの定番モデル。
独自の形状のピックガード、8行のブランドロゴが入ったラージヘッドストック、ストラトキャスターをベースに抱え込みやすさを考慮し再デザインされたディンキーシェイプが特徴。
ストラトキャスターと同様のコントロールを持つHD-P、ミッドブーストの搭載されたHDなどスペックによってさまざまなラインナップが存在する。
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James Tyler USA Studio Elite
Classic
ストラトキャスターと同様のデザインが採用されたトラディショナルなモデル。
プレイヤビリティが考慮されたネックヒールコンターや7行ブランドロゴのスモールヘッドが特徴。
Tylerbastar
テレキャスターシェイプが採用されたモデル。
2005年に生産完了となっているが、同じく生産終了となったクラシックモデルとともに復活を遂げている。
Mongoose
レスポールとテレキャスターの中間的なデザインに仕上げられたオリジナルモデル。
チェンバードのマホガニーボディに2ハムバッカーがスタンダードなスペックとなっているが、P-90を搭載したMongoose Special、テレキャスターライクのスペックのMongoose Retroがラインナップされている。
Ultimate Weapon
Dann Huff氏が自身のバンドGiantのツアーで使用するために制作されたモデル。
エッジのたったシェイプのボディが特徴的で、2Hレイアウトにシリーズ/パラレルスイッチ、ミッドブーストを搭載、マホガニーネック/ボディが採用されたモデルがスタンダードとなっている。
自分だけのオリジナルオプション
James Tyler Guitarは1本1本が異なる仕様やデザインが製作されているためオーダーシート式での製造となっている。
そのためピックアップやコントロールからボディの構造までオプションをつけることが可能なのだ。
ここでは代表的なオプションの種類や内容について解説していく。
ブリッジ
初期モデルよりWilkinson製のブリッジを採用してきたTyler Guitarsだったが2006年からGotoh製のブリッジプレートにHip Shot製かRaw Vintage製サドルの組み合わせが選択できるように変更された。
ブリッジプレートも2点支持式と6点支持式が選択できるためプレイスタイルや音の暴れ具合の好みでチョイスできる。
電装系
ピックアップ構成の変更、TylerといえばSSHのものが多いがHSHやSSS構成もStudio Eliteモデルで選択できる。
またDemeter製 Mid BoostサーキットやOn/Offスイッチ、Presetスイッチの搭載についても選択が可能となっている。
ウッドオプション
ボディ材やネック材についても指定が可能だ。
まずはネックに美しい杢のバーズアイを使用することやワシントン条約(CITES)のおかげで輸出入が難しくなってしまったマダガスカルローズウッド指板もオーダーできる。
またボディーに関してはアッシュ材の使用やフレイム/キルトメイプルトップの選択、さらにはリブド加工と呼ばれるチェンバードボディー化もオーダーが可能である。
個性的なカラーオプション
Tyler Guitarsの魅力といえばなんといっても同じもののない独特なルックスである。
まずはフィニッシュ、つぶしカラーやサンバースト、ラメフィニッシュに関してはノーチャージとなっており、Jim Burst、Shmear、Vomit、Burning Water等はアップチャージの対象となっている。
また色合いだけでなく、艶消し、もしくはきらびやかさのあるセミグロスフィニッシュが選択できる。
ちなみに数年前まではこれでもかというほどにつややかな仕上がりのグロスフィニッシュもあったのだが姿を消してしまった。
その他にもマッチングヘッドやロゴ、バインディングやパーツのカラーまで選択できるので自分好みのスペックを追い求めていただきたい。
オリジナルピックアップ
2005年、James Tylerは自社にてピックアップを製造するようになる。
ちなみにそれまではTom Anderson、Seymour Duncan等のピックアップが搭載されていることが多かったのだが、Tyler氏の求める音を再現するべく50~60年代のピックアップを分解してマグネットやワインディングパターン、ワイヤーの素材まで研究が行われた。
James Tyler製ピックアップはハンドワウンドがもてはやされる中、Suhr等のハイエンドブランドと同様に個体差を排除するためにコンピューターで制御されたワインディングマシーンで製造されている。
出力やキャラクターを分けてシングル、ハムバッカー含め17種類がホームページに公開されており、シングルコイルモデルはハーフトーンを生かすためセンターリバースが採用されている。
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James Tyler Guitarsのいい個体とは?
ここまではJames Tyler Guitarsの歴史や主なスペックにて書いてきたが、ここからはいい音とされる固体や年代等について触れていく。
筆者が楽器販売店に勤務していたころ、「この個体は鳴っていますか?」「あたりですか?」などと質問されることが多かった。
James Tylerに関しては同じモデルの中でも様々なスペックがあり正直なところ最終的には好みになってしまうのだが、ほかのブランドのギターでは出せない唯一無二のJames Tylerサウンドと言えばズバリ「制御のできないパワー感と暴れ感」だ。
まずパワー感を語弊なきように説明すると音量ではない、突き抜け感とスーパーカーのような排気量だ。
そしてそのパワー感が特有の暴れ感と組み合わさることで、他のハイエンドブランドのギターにはない暴力的に突き抜ける出音につながるのだ。
数百本のTyler Guitarsの楽器に触れた筆者の主観ではあるが、90年代末から2000年代半ばにかけて製造された個体にその傾向が多く、特にメイプル指板でSeymour Duncan製ピックアップとWilkinson VS100ブリッジスペックに「当たり」が多いと感じた。
しかしあくまで好みの部分もあり、音源感のあるよりハイエンドなサウンドが好みの方にはアルダーボディーに自社製ピックアップ&Raw Vintageブリッジが搭載されたモデルがおすすめだし、リアル80s~90sを求める方には90年代半ば以前の創世記Tyler Guitarがばっちりであろう。
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近年スペックチェンジに伴い新品価格の値上げ、それに伴った中古相場の高騰が起こっているため以前にまして「高嶺の花」なイメージのついてしまったTyler Guitars。
しかしそんな中でも探し求め使い続けるプレイヤーが絶えないのはJames Tylerでしか得られないMaxi-Mum ToneとMaxi-Mum Playabilityを経験してしまったからなのであろう。
今までにどれだけの名盤がJames Tyler Guitarによりプレイされてきたことだろう...Michael Jackson、Bon Jovi、GiantからRoby Duke、Faith Hillまで。
安い楽器ではないが所有してみればその価値と必要性がわかるであろう。
そう、あのキャッチコピー通りだが「あなたは知っているか、それとも知らぬままか」。

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