多数のブランドが参入し毎月新機種が登場する近年のエフェクターシーン、試奏してみても次に新しいペダルを試すころにはその音を忘れてしまう....
そして近年ハイエンドペダルのブームによりエフェクターの単価が上がってきているのも事実、お財布を気にするとすべて買ってみるわけにもいかないというのが現状であろう。
そうこうしているうちに店員に顔を覚えられた気がしてなんとなく楽器屋に行きづらくなってしまった、なんてことも...。
特にオーバードライブに代表される歪み系は「歪み沼」とも揶揄され、数多くの機種を前に頭を悩ましているユーザーも多いのではないだろうか?
この記事では現役楽器店勤務の筆者が同じアンプとギター、セッティングで試した際の感想や印象、そして価格相場観も交えながらじっくり解説していく。
弾き方やセッティング、個体差で音が違うことは承知の上ではあるが、数多いオーバードライブ選びにお悩みの方は是非とも読んでいただきたい。少々長くなるが最後までお付き合いいただけたら幸いである。
目次
近年はやっているオーバードライブは?
まず最初に最近はどのようなオーバードライブが売れているのかが気になるところである。
テレビや雑誌で見るプロたちが使っている、SNSや試奏動画でバズっている、レビュー記事を読み漁る、など情報収集に余念がないこともエフェクターマニアには共通の属性である。どの機材も魅力がありそうだし、もし気に入らなくてもリセールが良さそうならガンガン試しているという方も少なくないだろう。
2020年春に発売された『ギター・マガジン 2020年4月号』の"デジマートで売れたエフェクターランキング"の結果が最近の『売れているオーバードライブ』を知る上では参考になるので追っていくことにしよう。
上位にランクインした機種の中からオーバードライブにカテゴライズされた機種のみを抜粋し、筆者が実際に弾いた印象を含め紹介していく。
『デジマートで売れたエフェクターランキング』※オーバードライブのみ抜粋
第1位 BOSS BD-2
まず堂々の第1位に輝いたのは定番機種BD-2である。
"邦ロックドライバー"と呼ばれ敬遠されることもあるものの、いまだにプロアマ問わずに愛用されている名機である。
出力レベルの大きさとゲイン幅の広さからクリーンブースター的にもメインの歪みとしても使用でき、モダンな質感ではないが抜けの良い音質はロックやブルース系のバンドでプレイする際に重宝することだろう。
特にシングルコイルピックアップを搭載したFender系ギターとの相性は非常によく、手元のコントロールでゲインを調節するスタイルには非常によくマッチする。
そこまで高くない予算でオールドスクールな音楽や邦ロック系の音色が好みの方にはBD-2をお勧めしたい。
第2位 Vemuram Jan Ray
登場してから多数のアーティストに使用され、新たな定番として定着しつつあるのがこのJan Rayだ。
ブラックフェイス期のFenderアンプのサウンドが再現されているというだけにハイゲイン系の音色ではないが、サチュレーション感や音の張りがあり単体の歪みとしても使用できる印象だ。
比較的まとまりがよく優等生的な音色のため、スタジオミュージシャンが集まった自前機材試奏会では全員のペダルボードにJan Rayを含むVemuramペダルが入っており現場での信頼度の高さがうかがえた。
意外とヴィンテージアンプというよりはTwo Rockをはじめとするモダンな質感のサウンドで、EQの効き幅やレンジが非常に広く、アンプを選ばずに"Jan Rayの音"にしてくれるためマイアンプのない方にもおすすめである。
安くはないが、いつでもどこでも安定した出音を求めたい方、近年のスタジオミュージシャン系のサウンドを求める方はマストバイとなってくる機種なのではないだろうか。
第3位 Fulltone OCD
こちらも長年にわたり定番機種として定着しているペダルではないだろうか。
コンプレッション感の強い歪みが特徴のHPモードとローゲインながらナチュラルで手元への追従性がよいLPモードによる汎用性、ブティック系にカテゴライズされることも少なくないが良心的な価格など非常に魅力的でその順位にも納得がいく機種だ。
スタジオのへたったJC-120やMarshallなどでも比較的ペダルのキャラで使いやすいサウンドに近づけてくれる点や、分離感を適度に残しつつ音圧のある出音など愛用者が多いのもうなずける。
この後にIbanez TS9、BOSS SD-1が続くなど、往年の名機が上位にランキングされていた。
現存数が限られるモデルがSNSで話題のペダルよりも売れているのはとても興味深いが、新興ブランドはあまり『売れている』とは言えないランキング結果であった。
実際に筆者も楽器店での販売状況などを鑑みると納得の結果という印象だ。
上記のランキング以外にもエフェクター選びに役立つ内容が満載なので興味のある方は是非とも『ギター・マガジン 2020年4月号』をご一読いただきたい。
ランキングに入らない新たな"歪み"
ここで盲点となっている新たなジャンルの"歪み"がある。
それは"アンプシミュレーター"と"プリアンプ"である。
(Kemper/Line6)
大音量での演奏ができない日本の住宅事情、DAWでの作業効率やそれと同様のサウンドをスタジオでと考えた場合Kemper StageやLine6 Helixをはじめとするマルチプロセッサーを使用するプレイヤーが圧倒的に増えた。
(Mooer Micro Preampシリーズ)
さらに安価な中国製ペダルブランドからもMooer Micro Preampシリーズをはじめとする高性能かつ安価なプリアンプペダルが発売しているのもそれに輪をかけているようだ。
実際にマルチプロセッサーの売れ行きは非常によく、プリアンプというジャンルに入るペダルも非常に足が速い。
つまりアンプを持たないプレイヤーとコンパクトペダルで組まれたボードを持ち歩くプレイヤーが圧倒的に少なくなったのである。
今後どんなオーバードライブが必要とされていくのか?
ではこれからの時代でも必要とされていくオーバードライブとはどのようなペダルであろうか?
大きく分けて以下の2つのジャンルに絞られていくだろうと筆者は考えている。
『定番機種、または定番ながらも存在がレアで復刻の対象になる』
『近年の現場で使用されることの多い"ミックス後の音がする"』
『定番機種、または定番ながらも存在がレアで復刻の対象になる』
1つは『定番機種、または定番ながらも存在がレアで復刻の対象になる』ペダルだ。
(BOSS BD-2/BOSS SD-1/Ibanez TS9)
機種を上げると、BOSS BD-2やSD-1、Ibanez TS9が前者、後者にはランキングにも入ってきたOD-1、Klon CentaurやIbanez TS10やTS808などが含まれる。
(BOSS OD-1/Ibanez TS10/Klon Centaur)
定番には定番たる理由が存在する、アンプにつなげば今まで往年のライブ盤で聴いて憧れてきたあの音がするのである。
実際には環境によってイメージと違うことも多いのだが、"とりあえず一台持っておく"ことで得られる安心感や所有することで得られる優越感、これはどれだけよくできたニューブランドペダルやシミュレーターでも得ることのできない感覚である。
『近年の現場で使用されることの多い"ミックス後の音がする"』
2つ目は『近年の現場で使用されることの多い"ミックス後の音がする"』ペダルだ。
例を挙げるとVemuram Jan RayやOvaltone Q.O.O、34-Xtreamなどが含まれる。
(Vemuram Jan Ray/Ovaltone Q.O.O/Ovaltone 34-Xtream)
ヴィンテージのギターやアンプを弾いたことのある方は特に実感したことがあると思うが、CDで聴いてきた音のようにきらきらしたバッキングや艶やかで伸びのあるリードトーンはアンプからは出ない。
高価なマイクプリアンプやコンプレッサーなどのスタジオ機材はギター用の製品からは決して出すことのできないリッチな倍音を持っており、それで加工して初めてあの音が生まれる。
しかし現在ではリアルアンプの音よりもWavやMp3から聴こえるシミュレーターやプラグインで加工されたサウンドのほうがプレイヤーだけでなく、コンポーザーやオーディエンスにも聴きなじみのある音であることに違いはない。
そんな時に威力を発揮できるのが上記のペダルで、近年SNS等で話題になるペダルもこのジャンルのものが多い印象である。
さらにこの手のペダルはデジタル機器とのマッチングもよいため、アナログ感や個性を作品に付加したい際など、今後さらに重宝されていくに違いない。
今後の価格相場も踏まえて考える
まずBOSSやIbanezなどの定番モデルに関しては価格の上下が比較的少ないため売り買いしつつ試していきたい方や、ジャンルによって使い分けたい方はまず王道のBD-2とTS9をお勧めする。
ブティックペダルをたくさん試してきた方も一周して定番を試すとそこに落ち着くケースも少なくないので非常におすすめである。
TS10などのディスコン機種に関しては値段を釣り上げてきた楽器屋が売れないことに気づき、相場が下がってきた最近は比較的安心して購入できる。
次にJan Rayなどのモダンペダルについてであるが、選ぶ際に少し注意が必要だ。
基本的に音や見た目で気に入るものを選ぶのが正解であるが、もし売りに出すかもしれないのであれば買取価格についても考えなければならない。
基本的に中古の買取価格の相場は中古売価の5~6割であるが、中古相場は売れ行きに左右されるため日々変動する。
たとえ新品が¥40,000近いペダルでも中古売価が¥12,000であれば、買取価格は新品同様であっても¥6~7,000程である。
これを避けるためには比較的息が長いペダルを中古で購入するのが安全策といえよう。
正直言ってVemuram Jan RayとOvaltone Q.O.Oくらいしか比較的安全と断言できる機種がないのが心苦しいが、やはり良い音を求めるためなら金に糸目をつけないが鉄則である。
最後に歪みペダルは自分の使用環境で一番良いサウンドのものが正解となるため楽器屋でいくら試奏しても正直思った通りにならないことは少なくない。
是非店頭では最大ゲインやボリューム、EQなどのコントロールの効きを主にチェックしておくことで(正直筆者はここが一番知りたいところであるが試奏動画では乗せられていることが非常に少ない)、"思ったより歪まない"、"思ったより音がバンドに入ると聴こえない"など根本的な理由での出費が少なくなるであろう。
絶対に試してみるべきペダル
最後になるが筆者の独断と偏見で絶対に試してみるべきと思う歪みペダルを紹介させていただく。
定番系とモダンな現場系とそれぞれサウンドと相場観含めコメントさせていただくので、迷った時は思い出していただければ幸いである。
BOSS BD-2
やはり定番系では"デジマートで売れたエフェクターランキング"〜オーバードライブ部門〜でも1位に輝いたBD-2を強くお勧めしたい。
1995年に登場してから四半世紀にわたるロングセラーを誇るBD-2であるが、当時随一のギターのヴォリュームへの追随性を持ったオーバードライブであったのではなかろうか。
アウトプットの大きさとほぼクリーンからライトディストーションまでこなせるゲイン量による汎用性、JC-120を含めたほとんどのアンプとのマッチングの取りやすさが非常に使いやすく安心感のあるペダルである。
筆者おすすめの使い方は主にかけっぱなしでVolume2時、Gain10時、Tone10時、J-pop的なリズムギターでは全つまみを12時でイメージに近い音像が得られるのではないだろうか。
相場観もここ十数年にわたり大きな変動がないことから人気がうかがえ、今後売買する場合でも大きな損失がないことが予想されるため、とりあえずの1台に最適なのではないだろうか。
Vemuram Shanks ODS-1
Bon Joviのギタープレイヤーでありプロデューサー/コンポーザーであるJohn Shanksとのコラボレーション商品であるODS-1。
このモデルはトランスペアレントなODからライトディストーションをカバーできるゲイン幅を持っており、スモールトリマーでBassとSaturationを調節可能となっている。
BassとSaturationを別のつまみでコントロールできることによりタイトで分離感を残しながらながら音圧のある音色を作りこんだり、トラディショナルなややブーミーでむちっとしたドライブまでコントロールできるのである。
多数のスタジオミュージシャンがJan RayとともにこのShanks ODS-1をボードに組み込んでいることからも、現場での実用性がうかがえる。
またFriedmanからTwo Rockまで"良いアンプ"をお持ちの方にはそのアンプの最大限のパワーを引き出すツールとしても非常に得点が高いモデルだ。
中古はほとんど出回っておらず、Shanks 4Kのようにディスコンとなる可能性もなくはない。
新品価格を考えても比較的良いリセールバリューとなるであろう。
実際にライブや録音でも使用していてあまり欠点という欠点が思い浮かんでおらず、個人的に相談を受けた場合でも定番系ならBOSS BD-2 Blues、モダン系であればVemuram Shanks ODS-1と返答をしている。
最後にまとめ
最後にここまでで取り上げたオーバードライブを列挙する。
定番系
- BOSS BD-2
- BOSS SD-1
- BOSS OD-1
- Klon Centaur
- Ibanez TS9
- Ibanez TS10
- Ibanez TS808
- Fulltone OCD
モダン系
- Vemuram Jan Ray
- Vemuram Shanks ODS-1
- Ovaltone Q.O.O
- Ovaltone 34-Xtream
アンプシュミレーター、プリアンプ系
- Mooer Micro Preampシリーズ
- Kemper Stage
- Line6 Helix
この記事で取り上げた機種は長く使うにしても入れ替えをする場合でも必ず良い選択肢になると思われるので興味のある方は是非ともチェックしてみて欲しい。

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参照書籍 『ギター・マガジン 2020年4月号』