"ボロイ楽器ほど、使い込まれた楽器ほどかっこいい"
憧れのアイツが弾いていた枯れ果てたギターへの憧れ。
ギターを弾けば弾くほど、知れば知るほど、愛すれば愛するほどに膨らんでいくヴィンテージギターへの飽くなきロマン。しかし年々、価格高騰を続けるヴィンテージギター…。
そんなヴィンテージ愛に溢れるギタリスト達の夢を叶えるべく生まれたのが、新品の状態からヴィンテージライクな加工が施された”エイジドギター”という存在であった。
この記事ではエイジドギター製作の先駆ブランド、「RS Guitarworks」の歩みや楽器の特徴、さらに価格相場にまで迫り言及していく。
少々長くなるが最後までお付き合い頂けたら幸いである。
目次
RS Guitarworksの歩み
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とある新聞記事がきっかけで出会った2人の職人
1994年、「RS Guitarworks」はギター・ビルダーのロイ・ボーウェン氏とスコット・リーディー氏の出会いから始まる。
既に歴史的ヴィンテージ・ギターを多数リペアしていたロイ氏がとある新聞記事に登場し、その記事を見たスコット氏が工房を訪ねたことがきっかけであった。
これまでお互いがやっていた仕事内容と方向性が全く一緒だと情報交換をする様になり、意気投合した2人はリペアやリフィニッシュ、ヴィンテージギターの修復を行う事業を共同で始めることになる。
エイジング加工のパイオニア
2人の事業は口コミを通して評判を呼び、すぐさま75本ものリペアオーダーが溜まったと本人たちが語るほどであった。そのヴィンテージギターに対する深い知識と確かな技術は徐々に業界内でも知れ渡ることとなる。
そうした中でかねてより抱いていたオリジナルギターを作りたいという想いが大きくなっていく。
1999年に2人の頭文字であるRとSを組み合わせたRS GUITARWORKSのロゴをヘッドに掲げた念願のオリジナルモデルをオハイオ州の楽器ショーに出展。そしてエイジング加工のパイオニアとして今日まで続くエイジドギターブームを牽引していくことになる。
田舎町の”ギター工房”であり続けること
フェンダーが正式にエイジングモデル(レリックモデル)を発表したのは1996年、ギブソンが1999年である。大手ブランドが発表する以前でもショップオーダーや個人ユーザーのオーダーによりエイジング加工がなされたモデルは僅かながらに存在する。そういったオーダーはRS Guitarworksのような小さなギター工房が請け負っていた。
現在の年間製作本数は約400以上あり、とりわけ他の工房では決して真似の出来ない精巧なエイジング技術は際立っている。大手ギター・メーカーからエイジング加工の依頼やカスタム・ペイントの依頼を受注していくまでに事業は成長し、著名ミュージシャンからの直接依頼も数多く常にバックオーダーがある状態だ。
エイジング加工のパイオニアとして30年以上に及ぶキャリアを持ちながらもRS Guitarworksはアメリカ中東部に位置する小さな田舎町ケンタッキー州ウインチェスターに拠点を置き、ギターメーカーではなく”ギター工房”としてひっそりと存在している。
「我々は、本当のヴィンテージ・ギターを再現するスペシャリストである。」
そう語る2人の職人は30年以上のキャリアを経た現在でも実験の日々に明け暮れている。
RS Guitarworksのベーシックモデルとスペック
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多彩なラインナップや仕上げの存在するRS Guitarworks、すべてを紹介することはできないが国内外アーティストに愛用されているモデルを含めた人気モデルを紹介させていただこう。
Slab series
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まずはトラディショナルなテレキャスターシェイプを採用したSlabシリーズ。
スラブといってもローズ指板しか存在しないわけではなく、50sスタイルのSlab BlackguardとSlab WhiteguardやSnakehead Teleを彷彿させるHombleなど様々なバリエーションが用意されている。
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Contour Series
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スタンダードなストラトキャスターシェイプのContourシリーズはメイプル指板のWhiteguardとローズ指板のGreenguardという区別になっており、そのほかにも2HやSSH、HSHなどパワフルなスペックなHot RodなどRSならではの個性的なモデルも存在する。
トレモロ・ブロックには試行錯誤の後に開発された70/75と言う純度の高いアルミニウム・ブロックを搭載しており、サウンドを心地よいと感じる高域帯域の上限である2KHzをピークにすることでスムースなトーンを実現している。
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Contour Bass Series
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歴史的に名器と呼ばれるSlab bass、’59プレベスタイル、’63ジャズベスタイル、70sジャズベスタイルからなるContour Bass Series。往年のヴィンテージ・フェンダーを彷彿とさせる完成度の高いモデルがラインナップされている。
Contour Bass Seriesはどれも生鳴りの跳ねっ返り感が非常に強い。これは軽量な木材を使っていることとエイジング加工が施された薄い塗装が関係しているものと思われる。そこに加えてオリジナルのコンデンサやポッド、パワフルなLindy製ピックアップが作用し強力なアタック感とローミッド生み出してくれる。その分ピッキングコントロールは難しくなるが、指弾き・スラップ・ピック弾き共に弾き手の感性をダイレクトにレスポンスしてくれるので玄人好みのベースをお探しの方には大変良い選択肢となるだろう。
またP-ByrdやContour Bass’54などRSらしく遊び心に溢れたモデルも展開されている。
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STEE
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長岡亮介氏(ペトロールズ、ex東京事変)による「SGシェイプでブラックガードのサウンド」とのリクエストにインスピレーションを受け製作されたSTEEモデル。
ボディの形状はSGタイプながらも厚みをテレキャスターと同じにすることで、このモデルならではのルックスとサウンドが出来上がっているのだ。
TLタイプのPU構成に1PガードのBlackguardモデルと、フロントハムバッカーに3Pガードの60'sがラインナップされている。
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TEEVEE
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テレキャスターとフライングVのハイブリッドモデルであるTEEVEEモデル。
Blackguardスタイルのものが主だが「ピンクペイズリーなどのカスタムカラーや、バウンドボディのCustomも用意されている。
またストラトキャスターとの相の子で、SSSピックアップ構成にシンクロナイズドトレモロの搭載されたSVEEも存在する。
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Solar Flair
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最後にRS Guitarworksのラインナップの中でもひときわ異彩を放つのがこのSolar Flair。
「ウィンチェスター・ライフルのテイストのある銃のレシーバーに似ている彫刻が入ったギターを作って欲しい」というジョーペリーからのリクエストに応えて制作されたこのモデルは、美しい彫刻とエイジドが施されたアルミ製メタルトップを持ち、セットネックと独自のサスティーン・マスター・ブリッジが相まって大きく、太くベルの様に鳴る楽器へと仕上がっている。
アルミトップがエイジド加工にRSロゴがピックアップとピンストライプ間に彫刻されたスタンダードと、1本に対し酸でエッチングされ同じギターデザインの存在しないアーチスト・オリジナルが用意されており、カラーのフルカスタマイズ、グラフィックオプションも可能である。
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精巧なエイジド加工
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1993年からエイジド加工に取り組んできたロイ氏、2003年には現在にも引き継がれる4つのエイジング具合を提唱、今となってはエイジドギターブランドの第一線メーカーとして高いクオリティのエイジド加工が人気を呼んでいる。
筆者も楽器店勤務時代にFender、Gibsonから国産もの、海外工房ものまで様々なエイジド製品を取り扱ったが、20万-30万円程度の価格帯での製品では群を抜いてクオリティが高いブランドでスタッフたちからの評価もとても良かった。
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現在オーダー可能なエイジドパターンは4種類あり、
1.エイジド加工のされていないMint
2.Closet Classicに値するLight(Under The Bed)
3.Journeyman Relic~Relicに近い(Played, But Loved)
4.Heavy Relic的なHeavy (Road Warrior)
となっている。
「ヴィンテージで同じものなど無いだろ?」の言葉通りに、一本一本どのように使われついた傷なのか想像しながらリアルなエイジング加工が施される。
カスタムオーダーやオプション
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RS Guitarworksでは上記で紹介したものを含むカタログモデルをベースにカスタムオーダーが可能となっている。
ボディ材、フレット、指板R、他モデルのネックシェイプへの変更等は表示価格内にて可能となっており、アップチャージオプションを含めてOrder Sheet方式で理想のギターを作り上げることが可能だ。
オーダーシートはトーラスコーポレーションのホームページからダウンロードでき、納期は約4か月ほどとなっている。
RS GuitarWorksの価格相場
中古相場はモデルごとの人気や定価によって差が大きく開いている印象だが、Rockabilly JrやBlaze等は20万円弱から半ば、SlabやContourなどの定番モデルは20万円台後半まで、エイジド加工の濃いモデル、STEE、Tee Birdなどの人気モデルに関しては30万円台に入ってくるものも多い。
近年のエイジドギターブームによりかなりの数のメーカーが市場に参入してきたため、顧客の関心が散りどのブランドに関しても以前より新品の余りが増えてきている。それにより中古の市場に流れてくる商品が減り中古でも新品との価格差が大きくなくなってしまった。
しかしRS GuitarWorksが製作するギターは独特なデザインや良質なサウンドに加え、国内アーティストにも使用者が多いため今後もそこまで中古売価や買取価格が崩壊することはないと思われる。これからRS GuitarWorks製品の購入を考えていた画面の前のあなたも安心して自分だけの楽器を探し出してほしい。ワンオフスペックの多いブランドのためドンズバの気に入ったモデルを発見したのなら即決がマストである。

※1~18 画像© https://www.taurus-corpo.com/rsguitarworks
参照サイト トーラスコーポレーション公式Webサイト