エレキギターには大きく分けて2つの進化の方向がある。
一つは究極のヴィンテージの再現、そしてもう一つは究極のモダンギターの追求である。
今回紹介させていただくStrandbergはギターという楽器のポテンシャルを拡張し続けているモダンギターの代表格といえよう。
ここではStrandbergの進化の歴史、代表的なモデルの特徴解説や楽器選びのポイント、さらに価格相場にまで言及し徹底的に解説していく。少々長くなるが最後までお付き合いいただけたら幸いである。
Strandbergの歩み
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創始者Ola Strandberg氏のキャリア
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Ola Strandberg氏(オーラ・ストランドバーグ)は1966年11月15日生まれ、もともとスウェーデンのローカルバンドにてプレイヤーとしても活躍する傍ら1984年から1993年までに数々のギターやベースを製作してきた。
職業としてのキャリアスタートはスウェーデンのウプサラ楽器店の勤務とCharvel/Jacksonのスウェーデン代理店であったHBLから始まるが、機械工学技師でもあった彼はCAD/CAMシステムへの技術者としてソフトウェア開発へと活躍の場を移しギター業界から一時的に離れることとなる。
そんな中転機が訪れたのは2007年のクリスマス休暇のこと、ギター製作に思いを馳せている時に「Ergonomic=人間工学」を使用した楽器製作と流通についてのアイデアが浮かんだのであった。
人間工学を基づいたギターの開発
アイデアは形に、2007年には"The Ergonomic Guitar System"を発足させることとなる。
まず取り掛かることとなったのは軽量なハードウェアの製作だ。
デザインした楽器に搭載するパーツを選ぶにあたってなるべくスペースを取らず軽量なパーツを探すが、一般流通しているものでは基準を満たすものがなく、パーツのデータを基にローカルの金属加工工場にて製作することとなったのである。
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2008年にはボディ形状やパーツを含めたラフスケッチからプロトタイプが日の目を見ることとなる。
流通スタート
2009年にはギター製作者たちに向けたパーツの販売が始まり、世界中の数々のビルダーがヘッドレスギターを製作することとなった。
ちなみにこの際には発売されていなかったが10年後にラインナップされるベース用パーツもすでに設計されていたようだ
※4(EGSギター)
そして2009年末にはついにオリジナルのギターであるEGS(Ergonomic Guitar System)ギターが完成、同時に12月のギター・オブ・ザ・マンス賞を獲得することとなる。
規模拡大と本格的な事業化へ
翌年には新たに発表する3機種のプロトタイプが完成しギターショウに出展、そのまた翌年には多弦モデルも開発され、現在ではスタンダードとなった"鹿の角のようなボディシェイプ"が特徴のBodenモデルを含めカスタムオーダーも受け付けることとなった。
※5(8弦モデル)
2013年にはワンオフオーダーでない製品(Custom Shop)の製作拠点をシカゴのWashburnカスタムショップへと移したものの、2014年にはすでにワンオフオーダー(Made to Measure)の予約待ちリストが250人分へと膨れ上がりハグストロームで楽器製作に携わっていたビルダーLeif Jakobssonとともに本格的に事業化が行われることとなる。
そして2014年末には量産ライン制作でのBodenも流通が開始され日本とアメリカへ届けられた。
日本とのつながり~新たなプロジェクト
2014年より日本での正規代理輸入はエフェクタービルダーとしても知られるShun Nokina氏によって行われている。
Strandbergのビジネスが世界的に成功し規模が拡大することとなった矢先の2015年にWashburn Custom Shopでの製作がストップになってしまったが、IbanezやFujigenのビルダーとして活躍し現在は自身の名を冠したブランドSugiを運営するスギモト氏のコンサルティングにより長野県のダイナ楽器によりJシリーズの生産が始まった。
その後アメリカで製作されるUSシリーズやベース、様々なアーティストとのコラボレーションによるシグネイチャーモデルなど現在は多種多様なラインナップを市場で見ることができる。
2007年から始まったStrandbergはすさまじい速さで成長を遂げ、いまや新たなメジャーブランドとしてその名を馳せている。
モダンを突き詰めたスペック群
「Ergonomic=人間工学」に基づき製作されてきたStrandbergには数々の独自スペックが採用されている。
サウンドだけでなく弾き心地もインスピレーションに関わってくるという哲学の基たどり着いたこだわりの数々を解説させていただく。
ヘッドレスデザイン
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ヘッドストックから重心を取り除くことで軽量ながら完璧なバランスを実現。
また余分な共振がなくなるためよりクリアなアンプからので音が得られるのである。
通常ヘッドレスギターは両端にボールのついたダブルボールエンド弦を使用するものが多かったが、ストランドバーグ製品はヘッド側のリテイナー上のボルトを締めこむ構造となっているため通常の弦が使用できるのも大きなメリットだといえよう。
EndurNeck
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Strandberg製ギターのネック裏は通常のギターのように半円形ではなく、人間工学に基づいた台形のようなシェイプとなている。
この加工により手首などの疲れを抑え、リラックスした状態での運指が可能となっている。
ファンド・フレット
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6弦側と1弦側のスケールを変えることにより低音弦のサスティンとこう音源のチョーキングのしやすさを確保するマルチスケールが採用されており、それに対応しフレットが扇形に打たれている。
前述のEndurNeckと組み合わせることで正確な運指と従来のギターより豊かなサウンドが得られる構造となっているのだ。
ちなみにこのファンド・フレットのリフレットは工房によっては断られる場合があるが、比較的大きな工房であれば承ってもらえるのでご安心を。
ブリッジ
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「Ergonomic=人間工学」に基づき最初に開発されたのはこのブリッジであった。
6弦分が完全に独立しているため、コードプレイ時の分離感が非常によく、軽量なアルミニウム製のためボディバランスへの影響も少ない。
弦交換の際はボディエンドのチューニングノブを回しきることで弦が抜け、ノブはレンチでも回すことが可能な点も非常にユーザーフレンドリーなデザインである。
パーツ素材
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ノブなどのパーツには航空機グレードのアルミニウムとカーボン・ファイバーが使用されている。
軽量性と機能性を考慮していきついた先のようだが、非常に近未来を感じさせるチョイスである。
ピックアップ
※11(Aluma X-Bar)
ほとんどのモデルにパッシブながらもアクティブ並みのノイズレスかつクリアさを兼ね備えたLace製のAlumitoneやAluma X-Barが搭載されている。
またコイルを持たない中空構造のため非常に軽量なのもこのピックアップの特徴である。
他ブランドとは一線を画すモデル群
新世代の楽器メーカーとして数々の常識破りなスペックを搭載し、他ブランドとは一線を画すモダンな楽器へと仕上げられているStrandberg。
ここからはそんなStrandberg製の人気もクオリティも高い4モデルをご紹介させていただく。
Boden Original 6
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まずは代表的なBodenシェイプで、OSシリーズを引き継ぎインドネシアにて生産されるOriginalシリーズのコストパフォーマンスモデル。
Strandbergのもっともスタンダードな仕様あるメイプルトップ・アッシュバックのチェンバードボディを採用しており、ネックはローステッドメイプルを使用したEndurNeck。
6弦モデルにはSuhr製のSSVとSSH+を搭載、5Wayスイッチとの組み合わせで幅広い音作りが可能となっている。
Boden J-Series J7 Standard
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長野県のダイナ楽器にて製造されるJ-SeriesによるBodenの7弦モデル。
多弦モデルにはLace Alumitoneがマウントされることが多く、非常にしまりのあるタイトなサウンドが特徴だ。
国内生産のため楽器店のカラーオーダーモデルなどの個性的なルックスのものもラインナップされるので、人とは違った見た目のモデルを手にしたい方は必見である。
Salen Classic
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SalenはStrandbergラインナップの中でも異色なトラディショナルなテレキャスターを意識したモデル。
基本的にはStrandbergらしいヘッドレスデザインやEndurNeck、ファンド・フレットなどが採用されているのだが、6弦側ホーンがBodenに比べ丸く、ピックガードとコントロールプレートがマウントされたデザインはかなりの異端児といえよう。
ピックアップはSuhr製のClassic Tモデルが搭載されている。
LEDA 8 Signature
※画像©️イケベ楽器
こちらはStrandberg初の日本人シグネチャーモデルとして発売されたLEDAモデル。
BABYMETALのバックを務める神バンドとしての活躍でも知られるLEDA氏のシグネチャーモデルは7弦と8弦それぞれ50本ずつの限定生産となっており、本人直筆サイン入りのスペックシートが付属している。
ボディトップは独特な杢が特徴のポプラバール、ボディバックには"日本の木を"ということでアオダモが使用されており、ローズウッド製のネックは通常よりややエッジの落ちたLeda's Soft Edgeシェイプとなっている。
ピックアップはBareknuckle製Aftermathで、8弦J-Custom史上初となるノースラントで搭載されている。
Strandbergの個体の特徴
さて、ここまではスペックや各ベーシックモデルについて紹介させていただいたので、筆者が楽器店勤務時代の経験からStrandbergの良い個体選びについて触れていく。
まず構造上というかシリーズなどでの採用になってしまう点なのだが、コストパフォーマンスモデルの一部のブリッジが非常にもろい構造のものがあり、中古入荷した際に調整不可能になっているものが多数見られた。
独自開発パーツのため互換性のあるパーツは見つけにくいため、修理には比較的コストがかかるであろうということで、一時買取対象外にしようかという議論がなされたほどであった。
J-Custom等のモデルに関しては一切そのような問題がなかったのだが、Strandbergの各モデルを試す場合には弦周りの耐久チェックをしっかりと行うことを強くお勧めする。
ボディの構造やスペックからか、音の個体差はかなり少ない。
エフェクターとの相性は抜群で、もともとピックアップのキャラクターがノイズレスかつクリアなタイプのものが搭載されているので非常にエフェクター乗りの良い原音となっている。近年では多数のエフェクターを駆使したミニマル・アンビエント・スタイルな演奏をするギタリストも増えているが、そういったスタイルとのマッチ度も非常に高いはずだ。
重量やバランスについても非常に安定しており、特に国内生産モデルに関しては重量含めほとんど個体差がないといっても過言ではないだろう。
重要なことなので念を押すが、Strandbergのモデルを試す際には弦周りの耐久チェックはマストで行うようにしていただきたい。試奏できない状況であるならばメールでも電話でも少ししつこいくらい店員さんにしっかりと状態の問い合わせを行おう。
Strandbergの価格相場感
新興ブランドかつ独特な楽器ながら球数は比較的多い。
しかし楽器店オーダーの独特なカラーが採用されたもので特に6弦モデルは、正直目の当てられない数の新品特価が出回り、最終的には当初の価格より10万円近い値下げが行われていた。
そのようなモデルに関しては楽器店もチェックを入れており、入荷後にデッドストックになってしまうことを危惧したなりの買取価格となることが予想される。
そんな中比較的人気なのはJ-Custom以上の高価で同スペックの少ないモデル、特にバールトップやエキゾチックウッドを使用した多弦モデルや上項でも触れたLEDAシグネチャーなどは動きが速い印象だ。
本国スウェーデンにて作られるMade to Measureシリーズの製品も近年は回転が速くほとんど見なくなってしまったため、長年ヘッドレスギターのフラッグシップを探してきたプレイヤーは見つけたら早めの決断を下すことをお勧めする。
売却をお考えの方には若干残念な状況ではあるが、Strandbergのモデルは総じて買い手市場の気配が強いためこれからゲットを考えている方からすると手を出しやすい価格帯で売り出されている良質な個体が見つけやすい状況と言えるだろう。
Steinbergerから始まり、KleinやWarwickなど様々なメーカーがラインナップしてきながらもなかなか定番が生まれなかったヘッドレスギター業界。
しかし近年街中でもStrandbergのケースを背負ったプレイヤーを見るたびに新たなスタンダードとしての存在感がひしひしと伝わってくるようになった。
ヘッドレスギターの可搬性やクリアなサウンドからもたらされるデジタル機材との相性など、"ダサい"と言われ続けてきたヘッドレスギターももう一度見直される時が来たのではなかろうか。
この機会に是非とも試してみてはいかがだろうか。

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※1~14 画像© https://strandbergguitars.com/